【11月20日付社説】災害対応拠点の水道/上下一体での耐震化が急務

11/20 08:40

 国土交通省は能登半島地震を受けて行った上下水道の緊急点検結果をまとめた。避難所や病院、役場など、災害時の対応拠点となる重要施設に接続する上下水道の管路とポンプ場が全て耐震化されているのは、全国で15%にとどまった。本県は337カ所のうち耐震化済みは17%の58カ所だった。

 重要施設が断水すれば、救える命が救えなくなる上、復旧や生活再建が遅れる要因となる。上下水道の耐震化が急務だ。

 緊急点検で重視されたのは上下水道の一体性だ。能登半島では上水道の被害は軽微だったが、下水道の復旧が遅れるなどして水が使えない事例が少なくなかった。上下水道のどちらかを耐震化するだけでは不十分ということだ。

 国は、上下水道事業者に策定を要請した耐震化計画を基に進捗(しんちょく)を確認するとしている。しかし計画の基となる点検結果に、農業集落排水や合併処理浄化槽に接続する重要施設は含まれていない。

 耐震化を優先すべき県内の重要施設は間違いなく337カ所より多い。実態を把握せずに対策を講じていては、災害時に機能不全に陥る施設が多数出る恐れがあることを、国は肝に銘じるべきだ。

 耐震化が進まない要因の一つに自治体などが運営する水道事業の厳しい財政事情がある。事業は原則、独立採算制となっている。人口減少や節水技術の向上で水の需要は減り続けており、耐震化に充てる資金の確保が難しい。

 国には耐震化を支援する交付金があるが、水道料金などに関する要件を満たさなければならず、活用のハードルは高い。中核市市長会は、耐震化について「自治体の厳しい財政状況に鑑み、事業執行に必要な交付金などを継続的に確保すること」とした上で、補助要件の撤廃や緩和を要望した。

 従来のやり方では耐震化は遅々として進まない。国は、耐震対策の加速化を図る新たな支援の枠組みなどをつくる必要がある。

 県の試算では現行の水道料金を維持した場合、十数年後には県内全域の水道事業が赤字になり、資金不足に陥る。将来的に料金改定の議論が避けられない流れの中で事業者が考えるべきは、複数の事業者の経営統合や施設の統廃合などによる運営基盤の強化だ。ただ、財政状況に格差がある事業者などの統合は簡単ではない。

 施設の維持管理など、共同で取り組みやすい業務から連携するのが現実的だろう。広域連携を円滑に進め、耐震化の資金を確保するために、県には調整役を積極的に担うことが求められる。

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