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パートナーシップ宣誓制度、理念広がるか 民間や市町村との共有が鍵

09/17 07:55

「いつか『触れにくさ』がなくなり、気軽に打ち明けられる社会になったらいい」と話す猪股さん

 「個性」として受け止めて

 「今までは『いないもの』とされてきた」。LGBTなどの性的少数者からはこうした声が多く上がる。当事者たちは県が導入したパートナーシップ宣誓制度を歓迎し、地域社会に前向きな変化を望んでいる。

 「制度の存在は『ここにいてもいいよ』という行政のメッセージだと感じる」。福島大4年の猪股詢平さん(23)は制度の意義をこう表現した。

 自身も同性愛者だが、拒絶されると考え、誰にも話さなかった。友達との恋愛話では小さなうそをついて流し、いつも隠し事をしているような感覚だった。

 大学に入り、性的少数者の居場所をつくるサークルに所属した。自分以外の当事者と出会い、徐々に親や友達にも、性的指向を開示するようになった。話してみて初めて「こんなに息苦しかったんだ」と気付いた。

 性的少数者らが横断幕などを手に福島市中心部を歩く「レインボーマーチ」の10月開催に向け、現在は準備を進める。「一歩を踏み出せない人に、自分だけじゃないと伝えたい」。今年は主催者共同代表に就き、決意を漂わせる。

 「性的少数者であることで想像以上に苦しんでいる人もいる。何となく触れにくい現状が変わり、一つの『個性』として受け止める雰囲気ができれば、きっともっと生きやすくなる」。制度の先に望むのは、誰もが安心して暮らせる社会だ。

 制度を作っただけでなく

 本県出身で東京都に住む美香さん(30代、仮名)は中学時代、初めて同性に恋愛感情を抱いた。ただ、多様な性について語ってくれる大人は周りにいなかった。学校の授業でも、女性は男性と結婚し、出産するのが当然のように教えられた。

 「戻ってこないで」。関東の大学に進学後、親から性的マイノリティーであることを理由に遠ざけられた。それまでは地元での就職を希望していたが、諦めた。

 「自分の存在は想定されていない」。人生で何度感じた痛みだろう。傷つく度に、自分が我慢しないといけないと思い込んだ。

 県の制度導入を聞き、率直にうれしかった。「今後は福島で生きることが選択肢になる」。対象サービスは当面少ないが、「まだ始まったばかり」と今後に期待を寄せる。

 県が制度開始前に実施した意見公募では、性的少数者の実態把握を求めた。「日々の困り事に積極的に耳を傾け、次の政策につなげてほしい」。民間企業には、同性カップルらを対象とするサービスの拡充や、従業員の福利厚生を適用するなどの柔軟な対応を期待する。

 「制度を作っただけで終わりにせず、これから県内の空気をみんなで変えていければいい」。生きづらさを抱える人が一人でも減るよう、美香さんは言葉に願いを込めた。

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