【9月29日付社説】火山防災/悲劇生まない対策加速せよ

09/29 08:03

 長野、岐阜県にまたがる御嶽山の噴火から10年となった。死者58人、行方不明者5人の被害を出した戦後最悪の火山災害を教訓に、県内にある活火山の防災対策を加速させる必要がある。

 御嶽山の噴火で国は火山対応の在り方の変革を迫られた。当時、気象庁は火山性地震の増加を把握していたが、警戒レベルを最低の1に据え置き、入山を規制しなかった。噴火後、火山に関する情報の発信方法などが改められた。

 政府は今年4月、観測などを一元的に担う火山調査研究推進本部を設置し、地震と比べて30年遅れとされる研究体制の立て直しに着手した。下部組織の火山調査委員会は25日、国内111の活火山の現状評価を初めてまとめ、8火山を重点的な研究対象に選んだ。

 日本の火山対策はようやくスタ ートラインに立ったといえる。政府は、8火山の調査研究などを、国内全体の観測体制の強化と噴火予測の精度向上につなげなければならない。

 県内の5活火山のうち、地殻変動や地震が近年確認されていた吾妻山の活動は「やや高まった状態から静穏に向かっている」、磐梯山は「概(おおむ)ね静穏」と評価された。安達太良山、沼沢、燧ケ岳は「静穏」との評価だった。

 県内の活火山が噴火する切迫度は低そうだが、いつ噴火するのか分からず警戒を緩めることはできない。本県を含む全国の火山活動について、ここ100年ほどの状況を「静かすぎる」と表現し、警戒を強める研究者は少なくない。

 登山者は、噴石から頭部を守るヘルメットや視界を確保するゴーグルなどを常備してほしい。観光客らも噴火時の避難場所などを確認することが大切だ。

 活火山のある全国の自治体では、シェルターの設置が徐々に進められている。県内では吾妻山での設置が検討されている。県と関係自治体は、登山者らの安全を確保するため、安達太良山と磐梯山を含め、設置を急ぐべきだ。

 長野県は噴火後、教訓の伝承などを担う「御嶽山火山マイスター」制度を創設した。山岳ガイドや教員ら約30人がマイスターとして活動しており、地域住民や観光客、登山者らの防災意識の向上を図る効果が期待されている。

 噴火時の被害を減らすには、住民らの火山への理解を深める取り組みを平時から進める必要があるが、担当者が入れ替わる行政だけでは不十分との指摘がある。県などには、マイスター制度などを参考に、普及啓発の担い手を確保する仕組みづくりが求められる。

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