【10月8日付社説】強制不妊補償法/早期支給への仕組み構築を

10/08 08:10

 被害者の多くは高齢で、一刻の猶予もない。国は、全ての被害者が迅速に補償されるよう、全力で取り組まなければならない。

 旧優生保護法下の強制不妊手術を巡る補償法がきょう、国会で成立する。補償法の前文には「国会および政府は、憲法に違反する立法行為と執行の責任を認め、心から深く謝罪する」との文言を盛り込み、国の責任が明記された。

 最高裁が7月、旧法を違憲と判断したのを受け、超党派の議員連盟が一連の訴訟に参加していない原告以外の被害者を対象とする補償制度の創設を検討してきた。

 旧法は1948年に議員立法で制定され、手術の規定は96年まで続いた。被害者は約2万5千人にも上る。訴訟の原告以外の被害者にようやく救済の道が開かれることになった意義は大きい。

 国は、手術を受けた本人に1500万円、配偶者に500万円の補償金を支払う。本人や配偶者が死亡した場合、子や孫、きょうだいら遺族が受け取ることができる。旧法に基づく人工妊娠中絶手術を強いられた人には、一時金として200万円を支給する。

 補償法の請求期限は法施行から5年で、被害者側が請求する。被害はこども家庭庁に設ける審査会で認定する。訴訟の原告側と政府が締結した基本合意書では、周知を徹底するため相談窓口の整備などが盛り込まれた。

 「家族などに知られたくない」などと自ら名乗り出ない人、自身が不妊手術を受けていると知らない人もいるとされる。被害者のプライバシー保護に細心の注意を払い、県、市町村と連携して対象者に通知するなど、支給漏れが起きない仕組みを構築してほしい。

 旧法を巡っては、2019年に被害者本人に一律320万円を支払う一時金支給法が施行された。しかし、支給が認められた人は約1100人にとどまり、請求期限は今年4月に5年延長された。

 補償についても早急な認定作業は当然ながら、全ての被害者を補償するためには、5年とした請求期限についても状況に応じ、柔軟に対応すべきだろう。

 基本合意書には、原因究明など第三者機関による検証、定期的な協議の場の設置などを柱とした恒久対策が盛り込まれている。

 「戦後最大の人権侵害」とされる。どうして障害などを理由に不妊手術を強いるような法律ができたのか。なぜ国などは過ちを認めず、被害者の救済までに時間を要してしまったのか。政府と国会は厳しく検証し、偏見や差別の根絶につなげなければならない。

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