厳しい世論を踏まえ、基準や理由が曖昧なまま、急場しのぎに下した判断にしか映らない。
衆院が解散し、15日の公示に向け、事実上の選挙戦に突入した。「政治とカネ」の問題が大きな争点の一つとなるなか、自民党は派閥の裏金事件で政治資金収支報告書に不記載があった12人の公認を見送り、公認した34人についても比例代表への重複立候補を認めない―との判断を下した。
非公認は既に決まっていた6人に、議会の解散当日に6人を追加した。党内外から裏金事件への対応が甘いと批判を受け、執行部が対象者を広げた形だ。
本県でも県連が小選挙区と比例代表に5人の公認を申請したが、福島3区の立候補予定者が追加で非公認、比例単独の立候補予定者の公認決定は先送りされた。
自民党は候補者を非公認とした選挙区に、別の公認候補者を擁立しないという。石破茂首相は「国民が代表者としてふさわしいと判断した場合、追加公認はあり得る」と語り、非公認でも再選された場合は公認する考えを示した。選挙に勝ちさえすれば、再び仲間に迎え入れるということだ。これではまやかしとの批判は免れない。
今回、非公認とした理由については「政倫審で説明責任を果たしていない」「地元で十分に理解が進んでいない」などとしている。党が独自に調査した各選挙区の情勢、県連役員などへの聞き取りも踏まえたようだ。
しかし非公認とした12人と、公認された34人の違いは明確ではなく、当事者でさえ把握していない状況にある。公認、非公認を判断した基準を示さぬまま、選挙で有権者の審判を仰ごうというのは到底理解されないだろう。党総裁である石破首相は、公示までに明確に示し、説明すべきだ。
そもそも裏金事件の真相解明は十分とはいえない状況だ。不記載があった議員に対し、政治倫理審査会での説明を強く促すなど、政党としてやるべきことは、他にもあったはずだ。これでは党として真相解明、再発防止に後ろ向きだと指摘されてもやむを得まい。
全ての選挙区に国会議員にふさわしいと認める人物を擁立し、目指している国の姿、政策を丁寧に説明するのが政権与党の責務である。その務めを怠ることで、有権者の政治や選挙への関心の低下を招く事態があってはならない。
今回の対応で一連の裏金事件に区切りをつけようというのであれば、国民の政治への信頼回復はおぼつかない。首相が掲げる「納得と共感」は遠のくばかりだ。