【10月12日付社説】ノーベル平和賞/核兵器廃絶へ大きな一歩に

10/12 08:00

 核兵器廃絶を訴え続けた懸命な取り組みが、平和を希求する世界中の活動の力となってきた。授賞を「核なき世界」を実現する大きな一歩にしなければならない。

 広島、長崎の被爆者らでつくる全国組織「日本原水爆被害者団体協議会(被団協)」に、今年のノーベル平和賞が授与されることになった。日本の個人や団体への平和賞は、非核三原則を表明し、1974年に授賞した佐藤栄作元首相以来、50年ぶり2例目だ。

 56年に結成された被団協は、被爆体験の伝承や後遺症に苦しむ被爆者の救済に取り組むなどして、核兵器廃絶に向けた世界中の運動を先導してきた。「ふたたび被爆者をつくるな」との強い思いや訴えが、日本以外の新たな戦争被爆国を生まないことに大きく貢献してきたのは間違いない。

 ノーベル賞委員会は「肉体的苦しみやつらい記憶を、平和への希望や取り組みを育むことにささげた全ての被爆者に敬意を表したい」としている。被爆者らの長年にわたる活動が、高く評価された意義は大きい。

 東西冷戦の終結から長い時間が経過した今も、世界は核の脅威にさらされている。ロシアはウクライナ侵攻で核兵器使用の可能性をちらつかせ、中東では核保有国とされるイスラエル、核開発を続けるイランとの間で緊迫感が高まっている。中国は核戦力を強化し、北朝鮮も核開発に躍起だ。

 日本政府は核廃絶を唱える一方で、米国と共に核抑止力の強化を進めている。2017年に国連で採択された核兵器禁止条約については「核保有国を動かさないと現実は動かない」として参加に否定的な姿勢を崩していない。

 核廃絶への流れは逆行しているとの指摘があるなか、今回の授与は、核なき世界に向けた機運を高める狙いがあるとされる。日本政府は、唯一の戦争被爆国として核に依存しない安全保障を目指すとともに、保有国への働きかけを強め、核軍縮や核廃絶の流れを確かなものにする責務がある。

 原爆投下から来年で80年となる。被爆者の平均年齢は85歳を超え、2世も高齢化が進む。被団協は会員の減少で財政難に直面し、地方組織などは活動休止や解散などを余儀なくされている。次世代への継承は待ったなしの状況だ。

 「生き証人」である被爆者の悲惨な経験をどう後世に伝え、核廃絶に結びつけていくか。政府は当事者らの切実な声に真摯(しんし)に耳を傾け、被爆者らの活動を力強く支援し、切迫している多くの課題の解決に導いていくべきだ。

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