東京電力福島第1原発事故の被災地の復興はまだ、緒に就いたばかりだ。はしごを外すかのような議論は復興を停滞させかねない。
政府が実施した事業の効果などを公開点検する「秋の行政事業レビュー」で、外部有識者が原発事故からの復興に関する交付金の見直しに言及する提言をまとめた。
避難指示が出た市町村などの復興を支援する福島再生加速化交付金については「一律に国が負担している現行制度のあり方について検討するべきではないか」とした。被災地での雇用創出などを目的とした自立・帰還支援雇用創出企業立地補助事業基金については、事業の終了時期について「避難指示の解除から10年を一つの目安」とすることを提案した。
いずれの提言も、個別事業の目標が不明確で、費用に対する効果があいまいなことを指摘している。事業を進める県や市町村などは自戒すべき点だろう。ただ、交付金の見直しそのものは、帰還などの状況の変化に伴って、さらに新たな課題が生じる被災地の現状を踏まえたものとは言い難い。
原発政策を推進してきた政府が東電と共に、事故で生活基盤を失った人々を支えるのは、被災地や被災者に対する施しではなく、事故を起こした側が負うべき責任によるものだ。有識者らの意見にはその基本の部分が欠如している。
政府の事務局が有識者に提示した資料では、レビューの主な論点が挙げられている。加速化交付金については、全ての事業と対象地域でその費用が国の負担となっていることについて、支援先の重点化を図るなどの改善が必要ではないかというテーマを示していた。
レビューは行政の無駄をなくすことが狙いだ。議論が提示された論点に沿って行われることを踏まえれば、費用対効果について厳しい目で検証が行われるのは当然の流れだ。復興庁の設置期限である2030年度を見据え、復興関連支出を整理するための地ならしと受け取られてもやむを得まい。
県や被災地は提言に強く反発している。レビュー後に来県した伊藤忠彦復興相は「懸念を招いたことは残念」と謝罪し、県と相談しながら、引き続き国が前面に立って取り組む方針を示したという。
懸念されるのは、交付金の今後が不透明となることで、復興に必要な事業が見送られたり、縮小したりすることだ。政府、復興庁などは、県との協調姿勢や復興に取り組む方針堅持といったあいまいなものではなく、31年度以降も含めた、被災地の復興を担保するための枠組みを早期に示すべきだ。