韓国国会が「非常戒厳」を宣言した尹錫悦(ユンソンニョル)大統領に対する2度目の弾劾訴追案を可決した。野党に加え、与党の一部議員が賛成に回り、可決に必要な在籍議員の3分の2を上回った。
尹氏は宣言直後の談話で「国民の皆さまに心よりおわびする」と謝罪し、自身の任期を与党に一任すると明言していた。しかし2度目の採決前の談話では、与党が求める早期退陣を拒否、戒厳令についても「兵力投入は1、2時間に過ぎない」などと正当化した。
前言を撤回し、責任を回避するような姿勢に国民は不信感を募らせ、世論調査では弾劾への賛成意見が7割を超えた。尹氏のリーダーとしての資質が疑われるなか、厳しい世論を踏まえ与党議員が離反したのは当然だろう。
大統領としての権力を乱用し、国内を大きな混乱に陥れた責任は極めて重い。弾劾を真摯(しんし)に受け止め、自身の進退を考えるべきだ。
尹氏の大統領としての職務は停止され、韓悳洙(ハンドクス)首相が代行する。憲法裁判所が180日以内に弾劾の妥当性を審理し、認められれば罷免される。尹氏は「私は決して諦めない」と強気の姿勢だ。
韓国の政府高官の不正を調べる「高官犯罪捜査庁」や警察などは、尹氏が内乱の首謀者とみて捜査している。捜査当局は身柄拘束に乗り出す可能性もあるという。
今後、憲法裁での審判と並行し捜査が本格化する。政治の混乱が長期化するのを避けるためにも、戒厳令の宣言という暴挙に至った真相の解明を急ぐ必要がある。
与野党の激しい対立が今回の事態を招いた一因とされる。最大野党「共に民主党」は政府高官の人事案を何度も否決し、予算案に強硬に反対するなど、尹政権を執拗(しつよう)に追い込んだ面は否めない。
一方、4月の総選挙で大敗した与党は保守政権の維持を優先し、弾劾訴追案についても曖昧な対応に終始するなど混乱を助長した。
今後、罷免による大統領選を見据え、与野党の対立がさらに先鋭化する事態は韓国国民も望んでいないはずだ。与野党は議論を重ねて、事態収拾を図るべきだ。
戒厳を進言したとされる前国防相が逮捕され、警察を管轄する閣僚も辞任した。内乱の疑いで警察庁長官らも逮捕されている。安全保障や治安を所管する組織の混乱に国民の不安が広がっている。
日本にとっても隣国の混乱は大きな打撃で、経済活動や安全保障などの不安要素になる。米国も含め、政府間の実務者レベルで緊密な連携を維持し、影響を最小限に食い止めなければならない。