うまく歌うのも大事だけれど―。作曲家の武満徹はそう前置きしつつ、合唱で何より大事なのは、互いを信頼し、敬い、他人の声を好きになることと説いた
▼人の顔がそれぞれ違うのと同じように、声も違う。他人の声を好きになるには当然、よく聴く必要がある。そして自分の声に耳を傾けられているということも知らなければならない(「武満徹著作集3」新潮社)
▼言葉が滑らかに出ない障害の一つ、吃音(きつおん)の若者が接客するカフェが19日、福島市に一日限定でオープンする。店員のマスクや名札には「言い終わるまで待ってほしい」など対話のポイントが記される。来店者は、店員のペースに合わせて会話する
▼障害への偏見や差別は時に、当事者から声を奪う。カフェを発案した女性も、いじめを受けた経験などから人前で話さないようにしていた吃音者。転機となったのは、障害者らが活躍する海外のカフェでの勤務。周囲の理解があれば吃音に悩む必要がないと気付いた
▼誰もが生きやすい社会に―などのスローガンをよく見聞きするが、声にならない苦悩を聞き取れているか。発する言葉にとげはないか。さまざまな声が混ざり合うカフェは、大事なことを教えてくれそうだ。