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【10月5日付編集日記】代償

10/05 08:00

 やなせたかしさんの作品に「チリンのすず」という絵本がある。ある夜、オオカミが山を下りて牧場を襲い、子羊のチリンをかばったお母さん羊が殺されてしまう

 ▼敵討ちを誓ったチリンは、あなたのように強くなりたい―とオオカミに弟子入りする。激しい訓練の末、もはや羊には見えない、けだものとなったチリン。ある夜、意を決し襲いかかる―。何年も耐えて、このときを待っていたはずなのに、心が晴れることはなかった

 ▼中東の軍事大国同士の報復合戦が、拡大の一途をたどっている。支援するレバノンの民兵組織ヒズボラの指導者らが殺害されたことに対し、イランがイスラエルにミサイルを撃ち込んだ。イスラエルは、レバノンへの地上侵攻の手を緩めず、強硬姿勢を崩していない

 ▼先月中旬には、ヒズボラのポケットベルやトランシーバーが相次いで爆発し、多くの死傷者が出た。どんな手段を使ってでも敵対する組織を追い込もうとするやり方は、抑止力にはなり得ない

 ▼イスラエルの首相からは、重い代償を払うことになるといった言葉が、たびたび口をついて出る。歯止めの利かなくなった報復合戦では、誰一人として心が晴れないのは分かりきったことなのだが。

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