いわき信用組合(いわき市)は15日、理事長、会長を務めた江尻次郎氏ら旧経営陣による10億円超の不正融資が発覚したと明らかにした。2008年7月ごろから11年2月ごろにかけて、同市の企業の資金繰り支援としてほぼ毎月、旧経営陣とこの企業の家族、親族らの個人口座を介して融資する「迂回(うかい)融資」を行っていたという。いわき市で記者会見した本多洋八理事長は「信用が第一の金融機関として重大な事態を招いた」と陳謝した。
「不祥事を隠蔽」との投稿、調査で事実と判明
信組によると、迂回融資は江尻氏ら当時の代表理事4人の合議で決めたという。この企業は08年当時、最大の融資先だったが、業績不振に陥ったため経営の監視役として信組から職員3人がこの企業に出向。経営改善は可能と考え、迂回融資が実施された。企業側からも債務の承認があったことから、迂回融資と認識していた可能性があるという。
その後、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故による賠償金や保証金などで業績が回復、迂回融資はなくなった。信組によると、10億円超の融資は滞らずに返済されていた。
今年10月初旬、X(旧ツイッター)で信組を名指しした上で「不祥事を隠蔽(いんぺい)している」との投稿(現在は削除)があり、当初は「誹謗(ひぼう)中傷だ」と考えたが、その後の現役員の調査で内容がおおむね事実と判明した。信組の聞き取りに対し、江尻氏は「ざんきに堪えない」と述べたという。江尻氏は04年から18年間にわたって理事長を務めた後、22年に会長に就任したが、この問題の責任を取って11月1日付で辞任した。
本多理事長はこのほか、14年には元職員による4500万円の横領を江尻氏ら旧経営陣が隠蔽したことや、元職員が09年に金庫から現金20万円を着服していたことも公表した。
こうした不祥事を受けて、信組と利害関係のない弁護士や公認会計士で構成する第三者委員会を設置。4~5カ月程度かけて事実関係や類似の問題について調査を進める。
信組は、第三者委の調査を待って刑事告訴などの対応を検討する。本多理事長によると、江尻氏は第三者委の調査に全面的に協力する趣旨の発言をしているという。信組は15日までに金融庁に届け出た。
迂回融資 不正融資の一つ。信用面などに問題があり、本来なら金融機関から融資を受けられない会社や個人が、信用のある第三者が金融機関から借り入れた資金を貸し付けてもらうなどして間接的に融資を受けること。関連会社や配偶者などを介在させることがある。