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【新まち食堂物語】美うら食堂・福島市 つないだ縁、感謝込めて

05/12 10:00

店を構えて40年。地域への感謝を胸にさまざまな縁をつないできた高橋要吉さん、美津枝さん夫妻(吉田義広撮影)

 福島市瀬上町の国道4号沿い、昭和の雰囲気漂う店構えと、黄色地の庇(ひさし)に記された屋号が目を引く。高橋要吉さん(65)、美津枝さん(64)夫妻が40年前に開いた「美うら食堂」は、大切な人たちと縁をつないで育ててきた繁盛店だ。連日、作業着姿の一人客や若いカップル、家族連れら老若男女がひっきりなしに出入りし、週末には県外ナンバーも目立つ。

 
 席に置かれた献立表には、定食類やラーメン類、カレー、ナポリタン、エビピラフなど開店時からほぼ変わらない約50種類。「盛りが良くて、何を食べてもうまい」と常連が太鼓判を押す豊富なメニューも特徴的で、中でも人気なのは、ニンニクを利かせた濃いめの味付けのニラ肉やニラレバなどの定食類。日に1500回ほど中華鍋を振るという要吉さんの腕は還暦を過ぎた今も筋骨隆々だ。


 2人との出会い  

 夫妻は45年前、美津枝さんの地元・宮城県女川町で出会った。かねて自分の店を持つのが夢だった要吉さんは高校卒業後、地元の川俣町を離れて女川で板前修業に励んでおり、客として店を訪れた美津枝さんに一目ぼれ。ほどなくして交際を始めた2人は、のちに福島市に移り、かつて同市渡利にあった喫茶店「サリバン」で働き始めた。

 独立を夢見る要吉さんに、サリバンの料理長だった斎藤実さん(83)は食堂のいろはを惜しみなく教えてくれた。結婚後、福島駅前に店を出す話が進んでいたが、業者の手違いでその場所に別の店が入り、計画が頓挫してしまった。そのころ既に要吉さんはサリバンを辞め、2人には娘も生まれていた。

 「とにかく稼がなければ」と市内のラーメン店で働き始めたころ、同僚として会ったのが三浦正美さん(71)だった。三浦さんは瀬上に構えた「美うら食堂」を事情があって続けられなくなっていた。歓迎会の帰り、三浦さんから事情を聴き、店を見せてもらった要吉さんは、「やってみるか」と奮起した。

 高橋夫妻が営む「美うら食堂」の屋号や広範なメニューは、この2人との出会いにゆえんする。

 出前から軌道に

 紆余(うよ)曲折を経て開店にこぎ着けたが、地縁のない夫妻にとっては苦労も多かった。当時26歳の要吉さんは午前中から翌日朝方まで営業したが「店を開けてても誰も入らない」日々が続いた。そんな時、店を支えてくれたのが出前だった。新聞の折り込みにメニューを入れ、近所からの注文が少しずつ増える中、徐々に経営を軌道に乗せることができたという。

 13年前の3月11日は、震災で割れた食器が散乱する店内を片付け、その日の夜から店を開けた。女川に実家がある美津枝さんも、津波に遭った妹の遺体が見つかり駆け付けるまでの10日間、がむしゃらに働いた。

 二人三脚で歩んだ40年、夫妻の根底にはずっと地域への「感謝」がある。昨夏、美津枝さんが膝を痛め、どんなに店が混むようになってからも続けていた出前をやむなくやめにした。「右も左も分からない頃から出前で支えてもらった店なので、本当に申し訳ない」。要吉さんの言葉には、悔しさとともに、深い感謝の思いがあふれていた。(渡辺美幸)

お店データ

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■住所 福島市瀬上町字町裏6の1

■電話 024・553・5232

■営業時間 午前10時~午後8時 (午後3~5時は中休み)

■定休日 月曜日

■主なメニュー

▽ニラ肉炒め定食=850円
▽ニラレバ炒め定食=850円
▽スパゲティナポリタン=750円
▽エビピラフ(スープ付)=700円
▽チャーハン(スープ付)=650円

240512syokudou2.jpg 豊富なメニューの中でも人気の「ニラ肉炒め定食」

 おすすめ、三者三様

 夫妻が二人三脚で切り盛りする店内には地元テレビ番組に出演時の色紙が並び、動画投稿サイト「ユーチューブ」にも頻繁に取り上げられている。番組や投稿で紹介したり、地元の人がおすすめしたりする料理は三者三様で、メニューの豊富さを物語っている。

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          ◇

 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 新まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。

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