• X
  • facebook
  • line

【新まち食堂物語】ハトヤ分店・会津若松市 伝えたい先代の「努力」

06/02 12:35

一番人気のソースカツ丼を中心に提供を続けるハトヤ分店の大堀さん(永山能久撮影)

 会津若松市の中心市街地から少し外れた閑静な住宅街。半世紀以上、変わらない味を親子で紡ぐ「ハトヤ分店」がある。小上がり2席、テーブル2席、カウンターというこぢんまりとした店内は、平日は地元の常連客、休日は家族連れや観光客であふれる。店を切り盛りするのは3代目店主の大堀正治さん(56)と母キヨさん(90)。大堀さんは「小さい店だからこそ、味や接客で大きな満足を届けたい」と話す。



 1971年、父辰三さんがキヨさんと同市七日町に看板を上げた。辰三さんが料理の道に足を踏み入れたのは終戦直後。裕福ではなかった辰三さんが「料理の道にいけば食いっぱぐれないだろう」と郡山市の和食店で料理の勉強を始めた。養豚や養鶏の手伝いから調理場まで、あらゆる仕事を経験し腕を磨いた。

 その後、お見合い結婚したキヨさんと会津若松市日新町にある食堂で働いた。稼ぐために独立を決心した辰三さんが店名を分けてもらい「ハトヤ分店」と名付け店を始めた。当時は今よりも店内が狭かったため、出前がメイン。通し営業で朝から晩まで365日、客を迎えた。東日本大震災の影響で店の一部が壊れ、2014年に現在の場所に移転した。

 地元に帰る選択

 大堀さんが店に入ったのは20歳のころ。居酒屋で働きながら東京都内でコンピューターの専門学校に通っていたある日、キヨさんから辰三さんが病気で店に立てなくなったと連絡があった。卒業後の就職先も決まっていたが、親の苦労を身にしみて感じていた。キヨさんからの連絡を受けた大堀さんには「地元に帰る」選択しかなかった。大堀さんが戻るまでの間、キヨさんは辰三さんを病院に通わせながらも一度も店を閉めることなく1人で切り盛りした。「とにかく頑張り屋で、当時店を守ってくれたのはおふくろだった」と振り返る。その年に辰三さんが52歳の若さで亡くなり、キヨさんが2代目、大堀さんが3代目を継いだ。

 店に入った当初、気にかけてくれた別の食堂の店主がいた。定食やラーメンの新メニューを作った際には味の違いを比べるために週に1回、作った料理をその食堂に持っていった。食べ比べは3年間続き、おいしさを突き詰めた。

 残飯なしが喜び

 ラーメンやチャーハンなど約30種類あるメニューの目玉は「会津名物 ソースカツ丼」。注文を受けてからじっくりと丁寧に揚げ、創業当初から継ぎ足した少し甘めのソースに浸す。平日は2日替わりでランチメニューを提供する。ラーメンとミニキムチのセット、ミニひれカツ丼とラーメンのセットなどどれも好評で、現場作業員やサラリーマンの常連客のおなかを満たしてきた。

 「『おいしかった。また来るね』の言葉がうれしい。営業が終わった後に残飯がなかったときもね」と大堀さんは声を弾ませる。「ようやく3代目まできた。先代が一生懸命つくった店で、先代の味をお客さんに味わってほしい」。その願いが通じているのは、満腹で幸せそうな顔をして店を出る客の姿で一目瞭然だ。(安達加琳)

お店データ

ハトヤ分店の地図

■住所 会津若松市金川町7の23

■電話 0242・22・6138

■営業時間 午前11時~午後8時(午後3時~同5時は中休み)

■定休日 水曜日

■主なメニュー
▽会津名物 ソースカツ丼=1050円
▽鶏の唐揚げ定食=1000円
▽ワンタンメン=900円
▽もやしラーメン=900円

ソースカツ丼ほか(手前から時計回りに)会津名物 ソースカツ丼、ワンタンメン、鶏の唐揚げ

 ヘルメットずらり

 店内の入り口には、ヘルメットがずらりと並ぶ。有名選手のレプリカモデルなどバイク好きの大堀さんの思い出が詰まったヘルメットたちだ。店にはバイクのツーリング客も多く訪れており、大堀さんは「バイク好きのお客さんがヘルメットの存在に気付いてもらえれば」と笑う。

ヘルメット

          ◇

 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 新まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。

この記事をSNSで伝える:

  • X
  • facebook
  • line