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【新まち食堂物語】中華飯店萬ん里・平田村 大好きな料理と末永く

06/16 13:25

平田村の中華飯店萬ん里の前に立つ石井正彦さん(左)と妻節子さん。多彩な中華料理が村民や国道49号を行き交う人から人気を集める(吉田義広撮影)

 平田村の国道49号沿いに地元で愛される中華飯店萬ん里(ばんり)がある。開店してから30年以上、小野町出身の店主石井正彦さん(62)が妻節子さん(61)と一緒に営んできた。石井さんは「多くの人に支えられて今がある」と感謝する。



 石井さんは東京で働くことに憧れ、高校卒業後に上京した。下町の商店街で中華料理店に入ると、22歳まで修業生活を送った。昼夜の営業に加え、出張宴会や店頭でのギョーザ販売も手がけ「午前2、3時ごろに帰り、朝8時前には出勤する毎日。特に歓送迎会のシーズンは寝られないほど忙しかった」と苦笑する。

 過酷な生活の反動か、修業後は料理に嫌気が差して職を転々とした時期もあった。運転手や住宅の営業などに挑戦したが「何か違うな」と身が入らず、いずれも長続きはしなかった。23歳ごろに知人の縁でビジネスホテルの料理人として働き始めると、料理への情熱が再燃した。

 バブル期に差し掛かる好景気で、働けば働くほど「実入り」も大きかった。「休みは週1日あればいい。とにかく働きたい」と、平日週5日のホテル勤務に加えて土、日曜日にも知り合いの飲食店でアルバイトに入った。「お金が手に入るだけじゃなく、いろいろな店で料理を勉強できるのが楽しかった」と懐かしむ。

 多彩な品目人気

 節子さんと結婚して子どもも生まれた平成初頭、景気が落ち込み始めた。東京で働き続けるか、福島に帰るか―。悩んだ末に「のびのびした環境で子育てしたい」と古里に戻る決心をして、1990年に平田村の空き店舗を借りて開店した。

 当初は国道から奥まった場所で店を構えたが、多彩な品目の中華料理がうけて村民や国道を行き交う人から人気を集めた。次第に村民とも交流が深まり、定期的に季節の新鮮な野菜をもらうようになった。岐阜県出身の節子さんは「平田の作物はとてもおいしい。受け入れてもらってありがたかった」と笑顔を見せる。

 約15年前に現在の国道沿いに店を移転、花の時期には同村の芝桜や小野町の夏井千本桜などが目当ての観光客が多く立ち寄る。中華料理で重視される「五味(甘味・酸味・塩味・苦味・うま味)」の調和にこだわっており、中でもしょうゆとオイスターソースの風味が際立つ五目あんかけ焼きそばが人気メニューだ。石井さんは「修業で覚えた味付けが今のベースになっている」と強調する。

 感動が心の支え

 料理を作る喜びも若い頃に学んだ。ある日、修業中の石井さんが1人で店にいると、老夫婦からラーメンを注文された。自力で料理を作って出すのはこの時が初めてで恐る恐る提供すると、老夫婦は完食し「ごちそうさまでした」と頭を下げてくれた。「不安でそわそわしたが、感謝されてとてもうれしかった。その時の感動が心の支えになっている」

 店名は中国の万里の長城にあやかっている。「長年料理を作っているけれど『ごちそうさま』とお客さんが喜んでくれるのが何よりも励みになる」と石井さん。果てしなく続く長城のように、大好きな仕事と末永く向き合っていく。(秋山敬祐)

お店データ

中華飯店萬ん里の地図

■住所 平田村鴇子字札場18の1

■電話 0247・55・3305

■営業時間 昼の部は午前11時~午後2時30分、夜の部は午後5時~同8時

■定休日 月曜日

■主なメニュー(値段は6月19日から)
▽五目あんかけ焼きそば=970円
▽麻婆丼=920円
▽チャーハン半ラーメンセット(平日ランチ限定)=940円

五目あんかけ焼きそばしょうゆとオイスターソースの風味が際立つ五目あんかけ焼きそば

 熟成たれ守り続け

 チャーシューを煮る自家製だれは、開店当初から継ぎ足してきたこだわりの味だ。劣化を防ぐため、店を閉めていた東日本大震災当時も絶えず火入れをして守り続けてきた。石井さんは「長い年月をかけて熟成した味を楽しんでほしい」と呼びかけている。

熟成たれ

 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 新まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。

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