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【新まち食堂物語】豚太郎・南会津町 仕入れと接客に妥協なし

06/23 10:36

豚肉を使ったメニューなどを提供する豚太郎店主の見上さん(中央)。客とコミュニケーションを取ることも大切にしている(石井裕貴撮影)

 南会津町田島の国道121号沿いに店を構える豚太郎は、首都圏からのドライバーやライダーなどの観光客、地域住民に愛されている。店名の通り、豚肉を使ったメニューが売りで、かつ丼やチャーシューメンが人気となっている。店主の見上風君(ふうじん)さん(61)は「お客さんに『また寄りたい』と思ってもらえるような店を目指したい」と話す。

 ソースかつ丼のかつは分厚く揚げ、ラーメンに入れるチャーシューはとろとろに近い状態になるまで数時間煮込む。ギョーザのあんは手作りで、専用の機械で蒸す、焼くの工程を経て肉厚に仕上げる。料理スタッフが交代で調理に力を入れているのに加え、店がこだわっているのは材料の仕入れだ。脂の乗った肉を求めて、精肉会社とは時に「妥協なき交渉」が行われているという。

 素材への熱の入れようには背景がある。秋田県出身の見上さんは高校卒業後、宇都宮市の企業に就職。観光関連施設への卸売り業務を担当した。お客さんの反応に耳を傾けるうちに食材に詳しくなった。「食材の良さをもっと広く知ってもらおう」と、25歳で独立。道路沿いの売店で、漬物などの加工品や土産品販売に携わった。現在も、観光シーズンには下郷町の観光地「塔のへつり」近くの売店で仕事をしている。

 口コミで客足増

 見上さんが車で南会津町の国道121号を通りかかった際、空き店舗があることを知った。「せっかくいい立地なのに、もったいない」と、2015年に豚太郎をオープンした。仕入れる食材にこだわり、料理の試作を深夜まで繰り返すなど経営努力を重ねたが、開店から2年ほどは客足が伸びなかったという。「もう店を閉めよう」。覚悟を決めたあたりで、近所の常連客から相次いで要望があった。「ゴルフの打ち上げで寄りたい」「今度、会合をしたいので、それまでは閉めないでほしい」。注文に応えているうちに、客数は徐々に増えていった。「何かを大きく変えたわけではないが、口コミで広めていただいたと思う。すぐに結果を求めず、こつこつと頑張ってきて良かった」と振り返る。

 店のもう一つの特長は接客。見上さんはなるべく客とコミュニケーションを取るよう心がける。料理を味わうためだけでなく、人と話すために1人で来店する客もいるという。大型連休などの繁忙期で行列ができた際は「あと20分くらいかかりそうだけど大丈夫?」などと声をかけ、待ち時間のストレス緩和に努める。

 昭和の薫り残す

 名物は会計時にやってくる。「はい、お釣りは○○万円です」と実際の金額の1万倍を伝える。これは昭和の時代に一部の飲食店や売店などで流行した景気づけの冗談だ。客は笑って受け流しても、気の利いた言葉を返しても、気付かなくてもいいというのが「暗黙のルール」。見上さんがよほど疲れていない限り、この釣り銭のやりとりを体験できる。「古き良き昭和の薫りを残したいのよ」と見上さん。「おいしかった、楽しかったと言ってもらえたら最高」。お客さんの小さな思い出の詰まった食堂を思い描く。(富山和明)

お店データ

豚太郎の地図

■住所 南会津町田島字鎌倉崎乙22の4

■電話 0241・62・4794

■営業時間 午前11時~午後2時半、午後5時~同8時

■定休日 木曜日

■主なメニュー
▽ソースかつ丼(並)200グラム=1300円
▽ネギ味噌チャーシューメン=1200円
▽カルビラーメン=1100円
▽ギョーザ(5個)=500円

ソースカツ丼やギョーザソースかつ丼とギョーザ、ネギ味噌チャーシューメン

 看板も自身で考案

 店の看板のデザインは見上さん自身が考案。会社員時代、包装資材のデザインを担当した経験を生かした。店名には2号店、3号店へと続く期待が込められている。店舗拡大が実現した場合は「豚次郎」「豚三郎」と名付ける予定で、見上さんは「そうなるよう努力したい」と話す。

豚太郎の看板

          ◇

 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 新まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。

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