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【新まち食堂物語】松喜食堂屋台店・いわき市 毎日通える味と店構え

07/07 10:22

独特の雰囲気がある店内。克美さん、洋子さん夫婦が切り盛りする(吉田義広撮影)

 いわき市の四倉海岸の程近く、国道6号から海側に曲がるとすぐに、半透明の波板トタン屋根が特徴的な松喜食堂屋台店が目に入る。忙しそうに調理する佐藤克美さん(69)の隣に接客担当の妻洋子さん(68)がいて、注文を受け付ける。むき出しの単管パイプが見える店内は、外観と同様「手作り感」にあふれている。

 メニューの中心はヒレカツを使ったソースカツ丼だ。揚げ油にラードを使い、衣が立つよう高温で一気に揚げる。かみしめた時のザクっという食感が心地いい。もう一つの目玉はラーメン。しょうゆ味と塩味があり、スープはこくがありつつさっぱりしている。克美さんは「毎日食べられるような味がベスト」と語る。

 昼の約1時間半の営業時間、客足はひっきりなし。そんな地域から愛される人気店は、13年前に大きな試練を経験した。

 震災翌月に再開

 カツを油に入れた瞬間だった。2011年3月11日午後2時46分。松喜食堂の本店の調理場にいた克美さんは激しい揺れに襲われた。「お客さん、大丈夫?」。客の無事を確認していると、今度は大津波警報が出た。「逃げろ」。周囲に声をかけながら車に乗ると、道の前と後ろから津波が押し寄せてきた。

 克美さんは高校卒業後すぐ、家業の食堂を手伝い始めた。松喜食堂の本店と、その近くの屋台店の2店舗を家族で経営。アイデアマンの克美さんは10年、ソースカツで地域を盛り上げようと「よつくらソースカツ倶楽部」を結成。四倉の飲食店各店舗がソースカツを提供し、一丸となって売り出そうとした直後に起きた大災害だった。数十本作ったよつくらソースカツ倶楽部ののぼりは、津波で流された。

 家族と一緒に何とか避難したが、さてこれからどうするか。被害を受けた店の片付けをしていると、通りかかった人から「マスター、店はいつから始まんの?」と声がかかった。「ああこれは、やんなきゃ駄目なんだな」。常連客の後押しを受け、克美さんは再開に向けて動き出した。

 自宅兼店舗だった本店の建物は津波で損壊。一方、屋台店の方は強風対策で地面にしっかり固定していたため流失を免れ、復旧できそうだった。克美さんは波板トタンで屋根を作るなど自ら修理に当たり、震災の翌月の4月に再開にこぎ着けた。店内は被災地にボランティアで訪れた人や作業員でいっぱいになった。

 夫婦で二人三脚

 あれから13年。その後も豪雨災害などのたびに修繕を繰り返し、今の店構えになった。暑い時期は水をかぶりながら調理に当たるという克美さん。その隣で、洋子さんが笑顔を絶やさず接客する。「どちらが欠けても成り立たない仕事。だから、丈夫で元気にやってくれているのが一番うれしい」と妻への思いを語る。

 「面白いところに連れて行ってやる」。そう言って知り合いを連れてくる常連客もいる。「できれば何も変えたくない。お客さんに受けているうちは続けていきたいね」と克美さん。震災からの復旧の過程で生まれた独特の風情を求め、今日も次々と客が訪れる。(須田絢一)

お店データ

240707syokudo3.jpg ■住所 いわき市四倉町東2丁目167の5

■電話 090・2956・7509

■営業時間 午前11時から。売り切れ次第終了。通常は午後0時半ごろまで

■定休日 水曜日

■主なメニュー
▽ソースカツ丼=980円
▽ミックスソースカツ丼=1350円
▽Aセット(小盛ソースカツ丼とラーメンのセット)=1250円
▽Bセット(ミニソースカツ丼とラーメンのセット)=1050円
▽こねぎラーメン=800円

240707syokudo2.jpgメニューの中心はヒレカツを使ったソースカツ丼。しょうゆ味と塩味があるラーメンも人気がある

 物価高で価格改定

 人気店にも物価高騰の波が押し寄せている。克美さんは「キャベツもソースも、じわりじわりと全てが上がった」と語る。こうした値上げに伴い、店も価格の改定を行っている。店内に掲げられたメニュー表は、金額の部分だけ上から重ねて貼り付けられている。

松喜食堂屋台店メニュー

          ◇

 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 新まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。

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