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【7月19日付編集日記】大人の階段

07/19 07:55

 野球とラブコメディーを組み合わせた展開を得意とする漫画家、あだち充さんの作品には、息子の試合をこっそり見に来る父親が度々描かれる。仕事を抜け出したのを上司に見つかったり、息子の彼女をナンパしたりと、お笑い担当のような役どころだ

 ▼あだちさんの描く父親たちは、万難を排して駆けつけているはずなのに、試合を終えた息子に声をかけることはない。翌日の新聞を読み、その扱いに一喜一憂するだけだ

 ▼高校野球の福島大会が熱を帯びている。球場で目立つのは、圧倒的に母親の方だ。そろいのTシャツを着てスタンドに陣取り、喉をからしながらわが子の姿を見守っている

 ▼試合に敗れた後、球場の外で監督の話などを聞く球児の輪の外側には母親たちがいて、選手たちより大泣きしている人もいる。「野球部の子の洗濯や母の夏」(田中藤穂)。懸命に汗を流した子らの節目は、母親にとっても、さまざまな思いがあふれる瞬間に違いない

 ▼あだち漫画のヒロインのように「甲子園につれてって」などと言うことはない。気にせぬそぶりで見守ったり、一緒に涙を流したりするのは、親ならではの愛の形だろう。それに気づく頃、敗れた君は大人の階段を一つ上る。

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