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【7月28日付編集日記】パリ五輪開幕

07/28 08:00

 時代がつくる人間がいるのかもしれない。農民から幕臣、官僚、そして「日本資本主義の父」となった。激動の世を生き抜いて、今夏、新1万円札に登場した渋沢栄一である

 ▼歴史がくれた幸運だろう。仕える徳川幕府が崩壊するころ、パリ万博を視察するため渡仏していた。ちょんまげも抵抗なく切った。城山三郎は小説「雄気堂々」にこう記す。「心を海綿のようにして文明を吸い取ろうとする栄一であった」

 ▼夜のセーヌ川に選手を乗せた船が流れ、パリ五輪が開幕した。観光名所を開会式に使うあたり、花の都らしいおしゃれな演出である。憧れの舞台に立つ選手たちを「自由・平等・博愛」の三色旗が迎えた

 ▼一方で「平和の祭典」と喜ぶにはほど遠く、戦争や紛争の影を色濃く引きずっている。民間外交を重ね、後にノーベル平和賞候補となった栄一の訪欧から150年余。今なお争いを続ける為政者たちに、祝祭の夜景はどう映っただろうか

 ▼栄一は「論語と算盤」を通して「道徳と経済の一致」を説く。五輪の商業主義や強欲資本主義が悩ましい時代に、新札となり再び世に顔を出した。過ぎし日のパリに思いをはせ、財布の中から慧眼(けいがん)のにらみを利かせているに違いない。


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