情報の無断利用の横行が続けば、情報を発信する報道機関などの体力は奪われ、ゆくゆくはインターネットを含めた全てのメディアの質の低下につながる。大手IT各社は目先の利益を追い求めることで、情報産業全体の将来性を狭めているのを自覚すべきだ。
インターネットの検索サイトで、検索した事柄が掲載されているページのアドレスよりも先に、調べたい事柄の概要などが表示されることがある。生成人工知能(AI)が複数の関連サイトを参照し、要約するなどしたものだ。この検索連動型サービスは正確性、要約の元となる情報を掲載している報道機関の著作権の侵害などの問題をはらんでいる。
例えば、ある連動型サービスに「チーズがピザにくっつかない」と入力して、「ソースに接着剤を混ぜると粘着性が増す」と回答したケースがある。AIが複数の情報を参照しても、引用や整理を適正に行えないことから、こうした不適切な回答が作られる。
誤回答は、サービスを提供するサイトに加え、参照元となる報道機関などの信用性をも失墜させかねないものであり看過できない。
回答が適正な場合も、利用者はAIが参照したサイトを見ずに、用を済ましてしまうことになる。
参照元となる報道機関などのサイトは、記事などと併せて表示される広告の料金を得ているケースがある。AIが参考にしたサイトより優先して、そこから抜き出した情報を表示するのは、参照元となる報道機関などが利益を得る機会を奪っているのに等しい。
報道機関にとっては、取材費用などをかけて掲載している情報に「ただ乗り」されていることになり、死活問題だ。費用の枯渇などから十分な取材を行えなくなれば、根拠が弱かったり、誤ったりしている情報ばかりが社会に流れるということにもなりかねない。
情報の正確性の大切さを、改めて社会で共有していきたい。
日本新聞協会は先月、検索連動型サービスについて、著作権侵害に当たる可能性が高いとする声明を発表した。しかし、最大手の米グーグルの広報担当は「生成AIによるサービスは、日本の著作権法を含む法令を順守している」とコメントするにとどまっている。
協会は声明で、著作権法改正など知的財産に関連する法律について、時代に見合った見直しや整備を要請した。検索連動型サービスを提供する事業者の自発的な改善が期待できない現状では、法規制などを通じて誤情報や、著作権の侵害を抑える必要がある。