涼風(すずかぜ)の曲がりくねって来たりけり(一茶)。家々が密集していた江戸の裏長屋住まいには、涼しげな風は真っすぐに入ってこない。あちこちぶつかりながら家の中を吹き抜けたときは、さぞ心地良かったに違いない
▼窓を閉め切り、エアコンはかけっ放しが当たり前の生活だと、一茶が肌で感じた涼風は想像するしかない。一歩外に出れば暑さが容赦なくまとわりついてくる。エアコンの室外機からはき出される生暖かい空気や車の排ガス。回り回って届くのは、こんな風か
▼回り道も、地球規模になると影響は大きい。日本の太平洋岸を直進する黒潮のことで、南に大きく迂回(うかい)する「大蛇行」が2017年から続いている。海流は太陽の熱や風などで起こるが、黒潮の変調は観測史上最長だ
▼大蛇行は夏の高温多湿化や大雨など気象に影響を及ぼすとされている。本来は房総半島沖で沿岸から離れる黒潮の続流も例年より北上し、海水温の上昇が不漁を招いている可能性が指摘されている。今年のサンマ漁も低調の見通しという
▼きょうは立秋。暦の上では季節が移ろい始める頃だが、まだまだ暑い夏が続く。舌を楽しませてくれる味覚が先細りすることなく、実りの時期を迎えてほしい。