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【8月18日付社説】湯浅譲二さん死去/音楽の幅広げた功績大きい

08/18 07:15

 郡山市出身の作曲家で文化功労者の湯浅譲二さんが94歳で亡くなった。長野冬季五輪のファンファーレ、NHKの大河ドラマ「徳川慶喜」や連続テレビ小説「藍より青く」などの音楽を手がけた。

 テープやコンピューターなどを使った実験的な作風と、グラフを用いた音楽を記載する独自の手法で知られた。特に電子音楽の分野では後進に大きな影響を与えた。

 電子音楽の旗手の一人として活躍した坂本龍一さんは、日本を代表する電子音楽として、湯浅さんの「ホワイト・ノイズによる『イコン』」を挙げている。かつてテレビの放送終了後に流れていた、ザーと聞こえる音声から特定の音を抜き出してつくった代表曲の一つに位置づけられる作品で、当時最新の技術を駆使し、聞いている人に音が動いているように感じられるようにしたものだ。

 湯浅さんは生前、今まで誰も聞いたことない音楽をつくることこそが創造的であるとの考えを話していた。湯浅さんがこうした実験的な作品を数多く手がけたことが、日本の現代音楽の幅を押し広げたのは間違いない。

 湯浅さんはこのほか、オーケストラ曲や、「はしれちょうとっきゅう」をはじめとする童謡なども幅広く手がけた。今年に入ってからも亡妻への思いをモチーフとした作品が、国内の優れたオーケストラ作品に贈られる尾高賞を受賞するなど、晩年まで精力的に活動していた。

 惜しまれる死去ではあるが、多くの人が作品に触れるきっかけとなることを期待したい。

 古里の名誉市民に就任した2017年には「私の世界観は、安積平野の開けた土地、猪苗代湖から望む風景、そういったものが基礎。心は常に古里郡山とつながっている」と語っている。湯浅さんの功績として忘れてならないのは、古里とその歴史、若者に深い愛情を注ぎ続けたことだろう。

 母校金透小の創立100周年に合わせた「金透讃歌」など、同市を中心に県内の学校の校歌や賛歌を制作した。同市制施行90周年・合併50年の記念曲「あれが阿多多羅山(あだたらやま)」を作曲した。

 滋賀県甲賀市の紫香楽宮(しがらきのみや)跡で出土した木簡に、万葉集の郡山市ゆかりの歌が見つかった際には、それに曲を付けて提供した。母校である安積高と、安積黎明高の合唱部によって初演が行われた。

 湯浅さんは古里への思いを繰り返し強調し、それを言葉だけに終わらせず、さまざまな形で実践してきた。そのことに深い敬意と感謝を表したい。

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