経済的理由で断念することなく、誰もが希望する勉強や研究に励める環境を整える必要がある。
東大が現在、授業料の引き上げを検討している。最近の物価、光熱費の高騰が背景にある。中教審の特別部会も大学など高等教育機関の教育費負担について年度内に答申する方針で、大学の授業料を巡る動きが活発になっている。
国立大の授業料は文部科学省令が定める「標準額」の年間53万5800円で、20年近く据え置かれたままだ。ただ各大学は標準額の20%増まで引き上げ可能で、東京工業大や一橋大、千葉大など一部の大学はすでに値上げしている。
国立大は、授業料を低く抑え、経済的に苦しい世帯の子どもなどが高等教育を受ける機会を保障してきた。地元に進学先のない地方の若者などは自宅から通学できない場合、住居費や生活費なども負担になる。物価高に加え、授業料も値上げとなれば、進学を諦める若者などが生じかねない。
東大は上限までの引き上げを検討している。判断結果は多くの大学に波及するとみられる。東大は他大学への影響なども考慮し、慎重に検討してもらいたい。
国立大法人の主要な収入源となる国からの運営費交付金は、2004年の法人化に伴う制度導入以来、国の財政難を背景に約1割減っている。さらに物価高などが経営を圧迫しており、国立大学協会は6月、国立大の財務状況は「もう限界」と訴える声明を出した。
大学は人材育成だけでなく、地域の研究拠点などとして産学連携の役割も担っている。国は各大学の財政状況を踏まえ、交付金を増額するなどの対応が急務だ。
授業料の引き上げの動きは私立も同様だ。文科省の調査によると、昨年度の私立大授業料は平均で95万9205円に上り、毎年のように増額を続けている。
国は国公私立を問わず、昨年度から低所得世帯や多子世帯を対象に、授業料などを減免する制度の拡充を行っている。しかし対象は一部に限られる。支援措置の対象拡大などを検討する必要がある。
文科省の推計では、昨年時点で63万人いた大学入学者は、40年には2割減少する。少子化に伴い、大学経営がさらに厳しくなるのは避けられない状況だ。
最近は企業との共同研究で収入を得る大学もある。しかし海外に比べ、日本は民間資金の投入、寄付が少ない。日本の大学の国際競争力の低下が懸念されて久しい。政府や大学だけでなく、産業界なども巻き込んで、大学運営の在り方について考える時期だ。