東京電力福島第1原発の廃炉作業で生じる処理水の海洋放出開始から、丸1年となった。これまでに7回、計約5万5千トンを放出し、現在は8回目が行われている。この1年で目立ったトラブルは起きておらず、周辺の海域で、放射性物質トリチウム濃度の異常も確認されていない。
計画通りに放出が進んでいることは評価できる。しかし一度でも安全を疑わせるようなミスやトラブルが起きてしまえば、風評被害などの影響は避けられまい。東電には今後も気を緩めず、着実な作業を続けることが求められる。
東電は来年1月にも、処理水などを保管しているタンクのうち、放出で空になったタンクの解体に着手したい考えを明らかにしている。タンクを減らすことは、溶け落ちた核燃料(デブリ)取り出しの環境整備の前提となる。処理水の放出をほかの作業の加速につなげてほしい。
構内には現在も131万トンの処理水などが貯蔵されている。本年度の年間約5万5千トンのペースで放出が続けば、これまで貯蔵している処理水などは約24年でなくなる計算だ。しかし、デブリの冷却に使用した水に加え、原子炉建屋に地下水の流入が続いていることにより、トリチウム以外の放射性物質も含んだ汚染水は現在も発生し続けている。
処理水の放出は、デブリの取り出しが済むまで続けざるを得ず、終了は見通せていない。東電などは、建屋と地下水脈を隔てる凍土壁で防ぎ切れていない地下水への対応を含め、汚染水を抑制する効果的な対策を強化すべきだ。
中国など一部の国・地域による日本産水産物の禁輸措置で近県の漁業者などに影響があり、東電が新たに設けた風評に関する賠償を受けている。ただ、禁輸措置は風評ではなく、外交上の揺さぶりの一種と考えるべきだろう。
中国は海水や放出前の処理水の「独立した試料採取」も求めている。放出を巡っては、国際原子力機関(IAEA)が検証作業を継続的に行っており、中国の専門家もそこに加わっている。国際社会が関与して原発事故処理の検証を行う仕組みは、十分な客観性が担保されている。中国の禁輸措置などの対応は筋が通っていない。
中国に対応の転換を促すのは、政府間協議だけでは難しいのが現実だろう。一部の太平洋島しょ国など、海洋放出に否定的な国への説明や働きかけなどを通じ、国際的な理解を醸成することで、理不尽な要求のしにくい環境をつくっていくことが大切だ。