領空侵犯は国際法に違反し、軍事的な衝突を引き起こしかねない危険な行為だ。日本の主権を侵害する行為であり、許されない。
中国軍のY9情報収集機1機が長崎県の男女群島沖を飛行し、日本領空を侵犯した。軍用機による侵犯を確認したのは初めてだ。日本政府は中国側に厳重に抗議し、再発防止を求めた。
中国側は意図的な侵犯ではないと説明している。ただY9が領空に接近した際、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進して警告したにもかかわらず、約2分間侵犯を続け、領空外に出た後も複数回、旋回した。衛星利用測位システム(GPS)が使われている時代に、誤って侵入したとは考えにくい。
日本政府は、侵犯に至った経緯について中国に説明を求めるとともに、同じことが二度と起きぬよう厳しく対応することが必要だ。
昨年度、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進した回数は669回に上った。そのうち72%の479回は中国機が対象だった。軍用ではない中国機などによる領空侵犯は尖閣諸島周辺でも起きている。
約20年前には米軍機に中国軍機が近づいて接触、中国軍機が墜落する事故が起き、両国の関係が緊迫した。偶発的な事故を避けるため、中国は、日本領空に接近する危険な行為を自制すべきだ。
海上自衛隊の護衛艦が7月に中国領海を航行した際、日本側は「技術的ミス」と説明した。国際条約では安全を害する行為を行わない限り、領海を航行できる権利が認められている。護衛艦の航行は国際法違反に当たらない可能性が高いが、中国側は反発した。
中国軍は台湾を包囲する軍事演習を行うなど、南シナ海や東シナ海で活発に活動している。一方、中国への警戒感はアジア諸国のみならず、欧州にも広がっており、今月もドイツの艦艇などが日本に寄港して協力関係を示した。
領空侵犯の目的を巡っては、領海航行に対する意趣返し、台湾に協調する日本の防空能力の確認などの見方がある。対中抑止力を高めるため、日本政府には中国の意図を見極めることが求められる。
日中の防衛当局は昨年、安保対話を約4年ぶりに実施するなど、対面での対話や交流を再開させた。1年ぶりに開かれた首脳会談では、岸田文雄首相が、習近平国家主席に安全保障分野での意思疎通の重要性を伝えた。
防衛力の強化に頼るのみでは日中間の緊張が高まるだけだ。過剰に刺激し合って不測の事態を招かぬよう、日本政府は対話ができる関係を維持することが重要だ。