• X
  • facebook
  • line

【8月30日付編集日記】海面上昇

08/30 08:45

 ベトナム南部、メコン川下流のデルタ地帯は、コメを中心に国内の食糧の半分以上を生産する穀倉地域だ。かつて雨期には深さ5メートルの水の下に沈む湿地だったが、ベトナム戦争後に政府が堤防建設などを進め、肥沃(ひよく)な田畑に変わった

 ▼三毛作の拡大で収穫量が増え、世界3位のコメの輸出国に押し上げた。しかしこの地域は近年、海水がメコン川を逆流することによる塩害に見舞われている。原因は地球温暖化による海水面の上昇。海岸から数十キロ離れた田もメコン川の支流から水を引くため、稲が枯れる

 ▼世界気象機関(WMO)が、海の水位の上昇速度が倍増していると警鐘を鳴らした。2014年からの10年間の世界平均で毎年4.8ミリ上昇しており、このまま推移すると、50年までに大阪は27センチ、東京で13センチの海面上昇が予測される

 ▼熱による海水の膨張や南極などの陸氷が解け出すことで起きている。海抜の低い島や砂浜などの水没が懸念されているが、ベトナムの農業危機は、海に囲まれ、河川が多い日本にとっても人ごとではない

 ▼気候変動に伴う大洪水、干ばつと同様に、塩害が世界的な食糧不足を加速させる恐れがある。海面の上昇を海だけの問題と捉えてはいられない。

この記事をSNSで伝える:

  • X
  • facebook
  • line