【8月31日付社説】巨大地震注意情報/防災力強化に向けた検証

08/31 08:05

 本県沿岸は、日本海溝・千島海溝沿いで大規模な地震が発生した際、津波への注意が呼びかけられる北海道・三陸沖後発地震注意情報の対象地域だ。同様の仕組みの南海トラフ地震臨時情報が初めて発表された経験を共有し、防災力の向上に生かす必要がある。

 宮崎県沖の日向灘を震源とする地震を受け、気象庁は8日に臨時情報「巨大地震注意」を発表した。巨大地震が起きる可能性が平常時より高い状態とされ、政府は、関東から沖縄までの対象地域に注意を呼びかけた。

 異常は観測されず呼びかけは1週間で終了したが、巨大地震の切迫性が高い状態は変わらない。県内では、南海トラフ巨大地震による長周期地震動で、ビルの高層階が大きく揺れるなどのリスクがある。人ごととせず、備えの再確認や徹底につなげることが大切だ。

 政府の呼びかけに強制力はなく、対応は自治体や企業などに委ねられた。情報が発表されたからといって必ず起きるとは限らない巨大地震に対し、日常生活を維持しながら、どう備えるかという社会実験的な側面があった。

 注意が呼びかけられた対象地域は、比較的落ち着いていたとみられる。ただ、旅行自粛の呼びかけを巡る一部自治体の混乱、宿泊予約のキャンセル、保存食品の品薄状態などの影響が確認された。

 行政による呼びかけの改善が欠かせない。政府や研究機関などは、市民が臨時情報をどう受け止め、行動したのか検証が急務だ。

 臨時情報を受け、JR東海は新幹線の減速運転、和歌山県白浜町は海水浴場の閉鎖などの対策を取った。避難所の開設の判断は自治体によって分かれた。

 自治体や公共交通機関などの対応は日常生活に与える影響が特に大きい。東北大災害科学国際研究所の福島洋准教授(地震学)は、「巨大地震注意が発表された際、どの程度の対応を取るべきか。社会として合意形成を図る必要があるのではないか」と指摘する。

 今回の対応が最適とは限らない。臨時情報には、津波からの避難が間に合わない地域などに事前避難を求める「巨大地震警戒」もある。自治体などは、住民や利用者らの意見を踏まえながら、対応を見直していくことが肝要だ。

 臨時情報や後発地震注意情報を生かすには、行政や企業、学校などが、情報発表後の対応を事前に計画することが重要となる。業種や地域などの特徴を踏まえ、各組織が対応行動をまとめられるよう、政府には参考となる指針の策定などが求められる。

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