日本の主権を侵しながら、その対応を試すような行為は決して許されない。
ロシア軍の哨戒機1機が9月、北海道・礼文島付近の領空を3度にわたって侵犯した。航空自衛隊の戦闘機が緊急発進し、警告として赤外線誘導ミサイルなどをかく乱する「火炎弾(フレア)」を発射した。防衛省によると、領空侵犯への対応として、空自機がフレアを発射したのは初めて。フレア発射は武器使用には当たらないとしている。
防衛省によると、対応した空自機は無線で退去するよう警告を続け、3度目に侵犯した際にフレアを発射した。警告のフレアが戦闘機に接触するなど、不測の事態につながる恐れがあったのは否めない。しかし、侵犯の意図を明らかにしない戦闘機に対して、強い警告を発する必要性があったのは明らかだ。フレアを発射した行為はやむを得ないだろう。
ロシア機が付近で活動中の米軍などの潜水艦を捜していた可能性を指摘する声もある。当初の狙いが何であるにせよ、フレアを発射せざるを得ない段階までロシア機が侵犯を続けたこと自体が危険な挑発だ。このような行為を繰り返すことは認められない。
日本政府は外交ルートを通じてロシアに強く抗議した。これに対し、ロシア外務省は9日後になって「(日本の)主張の根拠を確認する情報を持ち合わせていない」と、侵犯を否定した。時間を置いて、事実の有無すら明かさない声明を発表したのは、侵犯を暗に認めているのと同じだろう。
外交に駆け引きがつきものであるにしても、不誠実な姿勢だ。
ロシア機侵犯前の1カ月間には、中国軍機1機が長崎県の男女群島沖を飛行するなどしている。こうした行為の背景に、ロ中の連携がある。ウクライナ侵攻により国際社会で孤立するロシアと、米国への対抗心の強い中国は互いを重要視し、安全保障などの分野で連携を強めている。一連の領空侵犯も、防衛協力を強める日米韓などをけん制する狙いがあるとみるべきだろう。挑発は日本だけに向けられたものではない。
ロシアや中国の動きに対応した安全保障については、石破茂首相が新たな連携の必要性に言及するなどしている。ただ、防衛力の強化や、防衛を念頭に置いた連携などで、両国に対抗する力を示すことばかりが前面に出ないようにすることが重要だ。政府には友好国と連携しながら、外交面で両国に冷静な行動を働きかける努力が求められる。