【10月10日付社説】衆院解散/政権選択の判断材料を示せ

10/10 08:00

 衆院が解散され、15日公示、27日投開票の総選挙に向けて各政党、各候補者が一斉に走り出した。1日の首相の就任から8日後の解散、26日後の投開票はいずれも戦後最短だ。自民党派閥の裏金事件に絡んだ候補者の公認問題で情勢は混沌(こんとん)としており、異例の短期決戦となる。

 石破茂首相はきのう、党首討論で解散理由を問われ「政権がやろうとしていることに信任を賜りたい」と述べた。総裁選で首相は、解散前に予算委員会を開き、国民の判断を仰ぐ材料を示すと主張していた。しかし就任後に予算委の見送りを決めると、野党の開催要求に応じることはなかった。党首討論は「政治とカネ」の問題に時間が割かれ、幅広い政策の議論を深める機会にはならなかった。

 首相がこれで十分な判断材料を示したとするならば詭弁(きべん)だ。自民1強にあぐらをかき、党利党略で物事を進める従来の党の体質と何が違うのか。政治不信が一層深まると肝に銘じるべきだ。

 首相は総裁選で、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の弊害を念頭に、功罪を検証すべきだと主張していた。しかし代表質問では「デフレでない状況をつくり出した」と擁護する一面を見せた。

 総裁選で唱えたアジア版NATO(北大西洋条約機構)創設に関しては「一朝一夕に実現するとは考えていない」と曖昧な答弁に終始した。導入に前向きだった選択的夫婦別姓を巡っても「検討が必要」と述べるにとどまった。

 首相の主張は総裁選時から変わっており、どこを基準に判断すればいいのか分かりにくい。目指す国の将来像や目玉政策をうやむやにせず、説明する責任がある。

 総選挙の争点の一つは裏金事件を契機とした政治改革だ。使途の報告義務がない政策活動費について、首相は「将来的な廃止も念頭に、透明性の確保に取り組む」とやや踏み込んだが、具体的な道筋には言及していない。連立を組む公明党は政策活動費の廃止を公約に明記している。与党はこの違いをどう説明するのだろうか。

 立憲民主党や日本維新の会は、企業・団体献金の禁止など与党より踏み込んだ改革案を掲げる。政治活動の原資を確保する手段を絞るならば、各党は、カネのかからない政治を実現するまでの道筋と方法を併せて語る必要がある。

 3年ぶりの政権選択選挙だ。政治改革だけを争点とすることに終始してはいけない。経済や人口減少など国の課題への対策を明確にし、有権者に判断材料を提供できるかが野党も問われる。

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