川俣町の「あじせん 楓亭」は、本県を代表する三大ブランド鶏の一つ「川俣シャモ」をふんだんに用いた親子丼発祥の店として名をはせる。使うのは素材にこだわった卵、シャモ肉、だしの3種だけ。親子丼は生みの親である社長の菅野清さん(73)から料理長の長男卓哉さん(48)に受け継がれ、さらなる進化を見据える。国道114号沿いにある真新しいシンプルな店構えで、県北や浜通りを行き来する人たちを待ち受ける。
創業は1983年。東京都内のすし店で腕に磨きをかけた清さんが同町で魚介類やすしの持ち帰り販売をスタートさせた。たちまちすしやオードブルの出前が殺到し、営業も軌道に乗った。そんな頃、町おこしの一環で川俣シャモを使って町を盛り上げようと考案したのが親子丼だった。「遊び」で作っていたラーメンのスープをかつお節や昆布などでアレンジし、和風だしから親子丼のだしに仕立てた。「普通のじゃ面白くない」と汁だくにした名物「ぶっかけ親子丼」がどこの店よりも早く生まれた。
重ねた試行錯誤
親子丼の味は親から子へ―。卓哉さんは料理の専門学校を卒業後、都内で働き、2008年ごろに帰郷。あじせんの料理長に就き、親子丼のレシピを受け継いだ。卓哉さんは「他では味わえなくて、よりおいしくするために日々進化している」と洗練させる。シャモと卵をマッチさせて「素材の味をどう生かすか」を考える日々。理想の味を追求し、何百回も試行錯誤を重ねた。
今の味に落ち着いたのは約5年前。黄金色に輝く卵は浅川町で取れる「平飼いのたまご」をぜいたくに3個も使う。普通の卵に比べ黄身の色が鮮やかで濃く、白身も粘り強い。市販よりも約3~4倍ほど高い高級卵だ。シャモ肉は仕込みの時点で一度下処理をし、火を通しても水分が飛びすぎて硬くなりすぎないように工夫を凝らす。だしは卵とシャモ肉の食感を最大限引き立てるように薄口で優しい味わいに仕上げている。「ごまかしはきかない」とこだわり抜いた味には自信をみなぎらせる。
一世一代の勝負
現在は卓哉さんと弟の貴史さん(46)が店を切り盛りし、清さんや母の恵子さん(70)らが支える。卓哉さんは都内の銀座や新宿の料亭などで懐石料理のいろはを習得した。貴史さんは新潟県ですし店に弟子入り。2人の持ち味を生かしながら親子丼をはじめ、すしやラーメン、炙(あぶ)りチャーシュー丼などさまざまな料理を提供する。清さんは「元々息子たちには飲食店はやらせたくなかった」と本音を漏らす。それでも幼少期から調理場に立つ父の姿を見て、2人とも自然と料理の道に進んだ。
料理人として約30年過ごしてきた卓哉さんは今後、一世一代の勝負を懸けようと、親子丼で専門店化し世界進出を目指す大いなる夢を抱く。「料理人は料理で人を喜ばせて笑顔にできる。そこがいいところ。うちの親子丼をもっとたくさんの人に知ってもらいたい」。受け継いだ看板メニューを川俣から世界へ発信する。(南哲哉)
■住所 川俣町鶴沢字村社前32の1
■電話 024・565・3929
■営業時間 午前11時~午後2時(同2時ラストオーダー)、午後5時~同7時(同7時ラストオーダー)
■定休日 月曜日
(祝日は営業、翌日休み)
■主なメニュー
▽川俣シャモのぶっかけ親子丼=1210円
▽オールシャモラーメン=1150円
▽凜(上にぎり)10貫=1750円
看板メニューのぶっかけ親子丼やすしなど
地域で一番の店に
道路拡張に伴い、現在の店舗に移転する前の店構え。席数は現店舗の3分の1程度だったが、カウンターの席もあり、すしなどを提供した。ここから飲食店営業の道が始まり、清さんは「地域で一番の店にしたいと思ってずっとやってきた」と思い出を振り返った。
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NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画
新まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。