東京電力は7日、福島第1原発2号機の溶け落ちた核燃料(デブリ)の試験的取り出し作業を完了したと発表した。事故を起こした原発からのデブリの回収は初めてで、原発廃炉の工程は新たな段階に入った。東電は今後、回収したデブリの分析を進める方針で、得られたデータを「廃炉の最難関」とされるデブリの本格的な取り出しに生かす方針だ。
東電によると、回収したデブリは、小石状で重さは3グラム以下とみられる。作業員が7日午前11時40分、2号機の原子炉格納容器に隣接する取り出し装置からデブリの入った容器を取り出し、専用のコンテナに入れて一連の作業を終了した。デブリは原子炉建屋2階の設備で放射線量や重量を測定している。
東電は準備が整い次第、茨城県大洗町の日本原子力研究開発機構(JAEA)大洗研究所の分析施設に運び込み、デブリを詳細に調べる方針。7日に記者会見した東電の担当者は「(回収したデブリは)極めて小さいが、得られる知見、分析結果は今後の取り出し装置や保管容器の開発に生かせる。調査を進めてデータを蓄積していく」と語った。
初めてのデブリの回収は、1~3号機に約880トンあると推計されるデブリの取り出しに向けた大きな一歩となった。東電は2030年代にデブリの本格的な取り出しを行う計画で、現在検討が進む取り出し方法の議論などで知見の活用が期待される。
ただ、試験的取り出しを巡っては、新型コロナウイルスの影響による装置の到着遅れや取り出し工法の変更などで3度の延期があり、当初21年としていた着手時期は3年遅れた。
また、伸縮するパイプ型装置を格納容器貫通部に差し込んで行った取り出し作業では、作業員のミスや装置に付属したカメラの故障などで中断が相次ぎ、取り出しまでに約2カ月半を要した。作業の一部を協力会社任せにするなど東電の対応も問題視され、多くの課題も浮き彫りになった。
東電は今後、別の遠隔操作機器「ロボットアーム」を使ったデブリの試験的取り出しについても計画しており、早ければ来年度にかけて実施する方針だ。
廃炉新たな段階、知見を生かして
【解説】東京電力福島第1原発事故後初めて、溶け落ちた核燃料(デブリ)の採取に成功した。試験的取り出しとはいえ、デブリの分析が進めば、今後予定される本格的な取り出しや、解明の進んでいない原子炉格納容器内部の状況把握につながると期待される。
高線量下で行われるデブリの取り出しは「廃炉の最難関」とされ、今回はその試金石だった。採取までには計画の遅れや作業ミスなどが相次いだが、デブリを採取できたことは一定の前進だ。今後デブリから得られるデータは、有効な取り出し工法の検討などに向けた貴重な知見となるだろう。
ただ、試験的取り出しは、高線量下で行う作業の難しさも浮き彫りにした。限られた時間と空間で行われる作業や放射性物質の飛散防止、そして想定していなかった機器の故障―。東電は作業の検証や詳細な原因の究明などを進め、今後に生かす必要がある。
また、取り出し着手時に発覚したパイプの接続順のミスは、東電が作業の一部を協力会社任せにしていたことが原因だった。東電は改めて反省し、今後の廃炉作業に向けた教訓にしなければならない。
福島第1廃炉推進カンパニーの小野明最高責任者は、試験的取り出しについて「放射性物質を(建屋の)外に出さないようにしながら、遠隔操作のような難しい作業も安全にできる証明になるだろう」と語っていた。失敗と成功の両方を経験した作業は「安全を証明した」とまでは言えない。2051年までの廃炉に向け、東電には今後も訪れるであろう困難を一つ一つ乗り越えることが求められる。(矢島琢也)