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【環境考察/農業新時代】暑さに強いコメを 昨年猛暑、開発機運高まる

08/28 12:00

育った稲の苗を土から取り出し、ポットに植え替える松崎さん。暑さに強いコメの品種開発に挑んでいる=6月、郡山市・県農業総合センター

 強い日差しが照り付ける6月、郡山市の県農業総合センターで、研究員の松崎拓真(32)は育った稲の苗を土から取り出し、ポットに植え替えていた。「穂が出るまで別の場所で成長させ、その後、ガラス温室で育てます。その際に水温を高めにして(稲に)ストレスをかけ、成長に影響がないかどうかを調べます」

 松崎が進めていたのは暑さに強いコメの品種開発だ。センターではさまざまな種類の稲を育てている。その一つとして、穂が出た後の水温などを調節して高温耐性を調べるという。

 近年は暑さに強いコメを求める声が大きくなっている。特に昨年は県内の観測地点のほとんどで平均気温が最高を記録するなど、異常ともいえる暑さとなった。その影響から、コメ粒の一部が白く濁る「白未熟粒(しろみじゅくりゅう)」などが発生。昨年12月末時点の1等米比率は76.1%で、2010年の74.1%に次ぐ低さとなった。「機運が一気に高まった。それほど昨年の暑さは衝撃が強かった」と作物園芸部長の本馬昌直(59)は振り返る。

 品種登録に時間

 他県に後れを取らないよう、センターでは品種開発を進めてきた。1993年の冷害を受け、寒さに強い品種育成に重点を置いた。その後、地球温暖化の問題もあり、2011~13年に東北6県共同で暑さに強い品種の試験などを実施。15年から高温に関する試験を始め、高温に強いコメの品種開発を本格化させた。

 コメの品種開発は一般的に10年前後かかるとされる。県産米の「福、笑い」も14年かかった。センターでは現在、高温耐性の品種候補がいくつかあるという。ただ、品種登録されるには生産体制や現場のニーズなどの問題もあり、「登録には時間がかかる」(本馬)見込みだ。

 「白未熟粒」深刻

 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構、茨城県)が6月に発表した将来予測によると、温暖化が最悪のペースで進んだ場合、2100年にコシヒカリの3~7割が白未熟粒になる。近年は暑さに加え、水不足や病害虫のカメムシの大量発生などもあり、コメ作りを巡る環境は一段と難しくなっている。いずれも温暖化の影響とみられ、対策が欠かせない。

 「生産者が作ることを選び、消費者がそれを選んで食べてくれるコメの開発を目指していきたい」と本馬。耐冷性や病気に強い品種を根底にした上で、将来を思い描く。「暑さは続いていくだろう。温暖化に対応した品種の開発はセンターの核となる」(文中敬称略)

     ◇

 白未熟粒(しろみじゅくりゅう) 稲の高温障害の一つ。穂が出た後に気温が高いとデンプンの蓄積が不足し、コメ粒の中に隙間ができて白く濁ったように見える。穂が出てから約20日間の平均気温が26度以上になると発生割合が増えるとの報告もある。

     ◇

 地球温暖化が人々の生活や生態系に与える影響について考える連載「環境考察」の第4部は、農業に関する変化やその影響などを追っていく。

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