• X
  • facebook
  • line

津波浸水地が希少植物の宝庫に 南相馬・小高、「再生の使者」など25種類

08/29 08:53

津波の浸水地域で「ミクリ」を確認する仲川さん。希少な植物の宝庫になっている=南相馬市小高区
確認された「ミズアオイ」(南相馬市博物館提供)
確認された「ツツイトモ」(南相馬市博物館提供)

 東日本大震災に伴う津波で浸水した南相馬市小高区の浸水地域で国や県の絶滅危惧種に指定されている植物25種類程度が確認され、希少な植物の宝庫になっている。市博物館の調査で明らかになり、震災前に未確認だった植物も含まれていた。津波による環境の変化が影響したとみられ、関係者は貴重な自然が守られていくことを願っている。

 海岸から程近い南相馬市小高区の水路で7月下旬、市博物館学芸員の仲川邦広さん(34)の足が止まった。視線の先には、白い小さな花が咲いている。「国の準絶滅危惧種の『ミクリ』ですね」。仲川さんは説明する。

 同市小高区では公的な自然調査が行われていなかったこともあり、市博物館が2016~23年に区内の植物や鳥類、昆虫などを調査。62種類の絶滅危惧種の植物が確認された。そのうち、浸水地域で確認されたのはイトモやリュウノヒゲモ、ツツイトモなど約25種類。「再生の使者」といわれるミズアオイも含まれている。県内ではほとんど見ることができず、震災前に確認されていなかったハマハコベなども確認された。

 「予想以上に多くの種類が確認された」。仲川さんは調査結果に驚く。なぜこれほどの希少な植物が確認されたのか。「土の中で休眠していた種子が津波によって発芽した可能性があるのではないか」。委託を受けて調査した福島大共生システム理工学類の黒沢高秀教授(59)は推測する。

 仲川さんや黒沢教授によると、浸水地域にはかつて「井田川浦」と呼ばれる浦があったが、大正から昭和初期の干拓によって水田が広がった。湿地性の植物は数十年たって発芽することがあり、長い間埋まって休眠していた種子が津波によって掘り起こされ、発芽した可能性があるという。津波後に除草剤があまりまかれず、草刈りで草地が維持されたことも一因とみられている。

 南相馬市小高区の浸水地域は現在、復興が進められ、農業を再開する動きもある。調査結果を踏まえ「希少な植物の存在を知ることは、地域の成り立ちや歴史を学ぶ機会にもなる。それを地域の特色として生かせるよう、さまざまな立場から考えてほしい」と仲川さん。黒沢教授は「今回のように生物多様性の保全上、特に重要な地域が明らかになった場合は、ビオトープの設置や環境に配慮した農業の推進など、希少種と復興が両立できるような知恵が求められる」と話している。

この記事をSNSで伝える:

  • X
  • facebook
  • line